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「勤務間インターバル」と「宿日直許可のない宿日直」の特例
医療機関向けコラム
2026年7月3日
医師の働き方改革がスタートし、医療現場の労務管理には大きな変化が生じました。そして各医療機関が新たな労務管理を進めていく中で、多くの人事担当者が壁として直面しているのが「勤務間インターバル」の制度です。
インターバル制度には、原則となる「24時間ルール」のほか、特定の条件で認められる「46時間ルール」が存在します。しかし、後者の適用要件となる「宿日直許可のない宿日直」には労働基準法上の明確な定義がなく、通常の夜勤とどう区別すべきか、頭を悩ませるケースが後を絶ちません。
本コラムでは、時間外労働の上限特例とインターバル制度の基本構造を改めて整理しつつ、実務上もっとも曖昧になりがちな「宿日直許可のない宿日直」の判断基準について、行政の見解や現場での留意点を踏まえて実践的に解説します。
労働基準法上、「医業に従事する医師(以下、「医師」とする。)」に対しては、一般の労働者とは異なる時間外労働の上限規制が適用されます。例えば、一般の労働者に対しては、年間の時間外労働の上限は720時間と定められています。一方で、医師に対しては、年間の時間外労働と休日労働を合わせた時間を対象として、720時間より長い上限時間を設定することも認められています。
医師に対しては、一般の労働者より長い時間外労働の上限時間を設定することが可能になる代わりに、「勤務間インターバル」を設けることが求められます。
勤務間インターバルとは、1日の終業時刻から次の始業時刻までの間に、一定時間以上(原則9時間)の連続した休息を確保する仕組みです。この制度の適用は、各医師に適用される特例の水準により異なります。例えば、長時間の時間外・休日労働(年1,860時間等)が想定される特例水準(B、連携B、C-1、C-2水準)の医師には、実施が「義務」とされています。一方、原則年960時間以内のA水準の医師については「努力義務」となっています。
勤務間インターバルは、「業務開始から24時間以内に9時間の連続した休息(以下、「24時間ルール」とする。)」の確保が原則です。しかし、「宿日直許可のない宿日直」に従事する場合に限り、特例ルールが適用できます。具体的には、原則の24時間ルールの代わりに、「業務の開始から46時間以内に18時間の連続した休息時間(以下、「46時間ルール」とする。)」を確保するというものです。これにより、最大28時間の連続勤務の後に、まとまった休息を取らせることが可能となります。
労働基準監督署長から宿日直許可を得ている宿日直(以下、「許可のある宿日直」とする。)の場合、その宿日直に従事している時間は労働基準法上の労働時間等に関する規制の適用が除外されます。そのため、時間外労働や休日労働の扱いにはならず、あらかじめ定められた宿日直手当を支給するほかは、原則として割増賃金(残業代等)の支払い義務は生じません。
一方で、「宿日直許可のない宿日直」における「宿日直」とは、医療法第16条に規定されている「義務としての宿日直」を指します。ただし、労働基準法上には「宿日直許可のない宿日直」といった特別な概念は定められていません。従って、「宿日直許可のない宿日直」に従事した場合、その労働基準法上における取り扱いは「通常勤務」やいわゆる「夜勤」と同様になります。例えば、実労働時間のすべてに対して割増賃金を含めた賃金の支払い義務が生じます。
ここまで述べた通り、労働基準法上には「宿日直許可のない宿日直」という特別な概念がないため、法律上で「どこからが宿日直許可のない宿日直として認められるのか」という明確な線引きは示されていません。 一方で、「46時間ルール」の特例を適用するにあたり、病院は該当の勤務が「宿日直許可のない宿日直」であると客観的に主張できなくてはなりません。では、通常の労働(夜勤など)と「宿日直許可のない宿日直」をどのように区別すれば良いのでしょうか。
通常の労働と「宿日直許可のない宿日直」の違いについては、行政のQ&A等で以下のような見解が示されています。
【判断の前提】 ここでいう「宿日直」とは、医療法第16条に規定する義務としての宿日直(主に病院の入院患者の病状急変に対応する体制確保を求めるもの)を指すため、通常の勤務時間と同態様の労働となる「夜勤」は含まれません。
【例外的な取り扱い(夜勤として整理している場合)】 医療機関において、夜間帯の労働を所定労働時間の「夜勤」と整理している場合でも、院内規則等における夜勤業務の明確化により、通常の日勤業務よりも「労働密度が低い業務」であることが確認できる場合には、「46時間以内に18時間」の特例ルールが適用可能です。
通常の日中勤務との区別にあたっては、例えば夜勤業務において以下の要件を満たす必要があります。
急患対応がない場合は、仮眠室での休憩が可能であること
通常の休憩時間に加え、労働密度が低くなる深夜や早朝等に別途休憩時間を確保すること
予定された手術の対応はなく、緊急手術のみの対応とすること(夜勤中の業務内容を列挙し、通常の日勤業務よりも労働密度が低いことを説明できること)
これらが院内規則等に明記され、かつ医師を含む職員全体に周知されている場合には、「通常の日勤業務よりも労働密度が低い業務=宿日直許可のない宿日直に該当し得る」と考えられます。
明確な基準が存在するわけではなく、あくまで実態として「通常の日勤業務よりも労働密度が低いこと」が求められます。
明確な基準が無い以上、実務的には、この労働密度の低さを客観的にどう主張できるかという観点からの検討が必要です。上記のような行政の要件を明確にルール化できるのであればより確実ですが、対応が難しい場合は、他の要素によってどう説明できるかを検討しなければなりません。
なお、明確な基準がなく「労働密度が低い」と言い切れない場合は、無理に「宿日直許可のない宿日直」として取り扱わず、通常の夜勤として運用する方が適切です。最終的には行政の判断となるため、「特例の対象には該当しない」と指摘された際、明確に反論することが困難となるためです。
今回の「宿日直許可のない宿日直」のように、医師の働き方改革には法律の明文がなく、医療機関ごとの「客観的な実態判断」が求められる場面が多々あります。万が一行政から指摘を受けた際、明確に説明できる院内規則や運用体制は整っているでしょうか。
弊法人では、医療機関への支援実績が豊富な社会保険労務士が、行政の見解や実務事例に基づき、判断に迷いがちなケースも含めて、的確にサポートいたします。対外的にも説得性のある院内ルールの策定や、リスクを抑えた適法な労務管理体制の構築にお悩みの際は、ぜひお気軽に弊法人へご相談ください。
※本コラムは、一般的な情報提供を目的としたものです。法令や行政の指針は執筆時のものであり、改正されることがあります。また個別の事案によって適切な対応は異なります。
執筆者:社会保険労務士 浅賀 聖斗
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