最新データから紐解くクロスアポイントメント制度

 大学・研究機関向けコラム 

2026年7月23日

はじめに

「優秀な研究の確保・定着」と「外部資金の効果的な獲得」。
この2つは、多くの大学経営層や産学連携の責任者が直面する極めて重要な経営課題ではないでしょうか。近年、この課題を同時に解決し、産学連携を組織的に対応する人事制度として「クロスアポイントメント制度」の利用が増加しています。

本コラムでは、文部科学省が公表した最新の調査結果を紐解きながら、本制度が大学経営と教員(研究者)にもたらすメリットについて解説します。

最新データが示す「産学連携の大型化」と「人材流動化」

省の「大学等における産学連携等実施状況について(令和6年度実績)」によると、民間企業との共同研究の受入額は約1,065億円(前年度比3.6%増)に達し、そのうち1件当たりの受入額が1,000万円以上の「大型共同研究」は2,016件で、件数全体の6.3%です。一方で、その受入額は約606億円に達し、共同研究費受入額全体の56.9%を占めるまでになりました。

研究者が2つ以上の機関に雇用され、エフォート(従事比率)に応じて、両機関で就労する「クロスアポイントメント制度」の導入は着実に進んでいます。令和6年度のデータでは、本制度を導入している機関数は270機関(前年度比13機関増)となっています。また、同制度を利用した民間企業等との人事交流も活発化しており、「大学等から企業へ出向」した教職員数は76人(前年度比16.9%増)、「企業から大学等へ受け入れ」られた教職員数は416人(同19.9%増)と大きく伸びています。クロスアポイントメント制度は、次世代の産学連携を牽引するうえで、大きな推進力となっています。

兼業とは異なる、外部資金を効果的に活用する仕組み

これまでも、教員が企業の技術顧問などを務めるケースはありましたが、それらは主に個人の枠組みである「本務外の兼業」として行われてきました。兼業の枠組みでは、原則として大学の施設・設備等のリソースを企業業務で活用することはできず、大学への直接的な資金還元も限定的です。
 一方で、クロスアポイントメント制度(在籍型出向)は「組織間で協定を結ぶ」点が最大の特徴であり、大学側に以下のメリットをもたらします。

  1. 人件費財源の多様化と学内財源の活用
    例えば、大学等が給与を一括支給し、企業がエフォートなどに応じた給与負担分を大学等へ支払う設計では、従来大学等が負担していた給与財源の一部を、学内で再配分できる場合があります。再配分した財源は、各機関の方針に応じて、若手研究者の雇用、非常勤講師の確保、教育・研究環境の整備などに活用することが考えられます。
  2. 研究・教育の充実
    教員が企業の一員として研究開発、知的財産戦略、事業化、社会実装の過程に関与することで、大学の技術シーズと企業の事業課題を結び付けやすくなります。また、企業で得た知見を授業や研究指導へ還元することで、学生や若手研究者に、研究成果が社会で活用されるまでの実践的な視点を提供できます。
  3. 企業リソースを活用した新規研究の創出
    教員が企業のインフラや機微情報にアクセスできるようになるため、従来の共同研究の枠を超えた、自由な発想による大型の新規研究開発プロジェクトの立ち上げにつながりやすくなります。

「混合給与」と「働きやすさ」による優秀な人材の確保

もう一つ極めて大きなメリットは、教員の待遇向上による「優秀な人材の確保と定着」です。従来、大学の給与水準のみで世界トップクラスの研究者を引き付けることは容易ではありませんでした。しかし、本制度を活用すれば、大学からの給与と企業からの外部資金を組み合わせた「混合給与」を実現できます。

最新データでは、本制度において教員へのインセンティブとして「給与の上乗せ」に関する規定を整備している機関が67機関(前年比4機関増)に上っています。企業での研究開発や事業化への貢献度を評価し、大学の基本給を上回る分をインセンティブとして還元する仕組みは、教員のモチベーションを劇的に向上させます。

さらに、適正なエフォート管理により、企業での勤務日にあわせて大学の会議出席や入試関連業務などを免除・軽減する措置をとることで、教員が過重労働に陥ることなく、研究に専念できる環境を保障することも推奨されます。

まとめ

最新のデータが示す通り、クロスアポイントメント制度は「外部資金の獲得」と「優秀な人材の確保」、そして「実践的教育の充実」を同時に実現する、経営面でのメリットが非常に大きい取り組みです。

しかし、2つの組織間で1人の教員を雇用するという特殊な形態上、「複数機関との労働契約(在籍出向)下での労働管理時間管理はどうするのか?」「社会保険手続きは誰が行うのか?」といった労務管理上の課題や、就業規則・知的財産規定の整備など、実務的なハードルを感じる人事担当者も少なくありません。

そこで次回は、制度導入時に必ず直面する「トラブルを防ぐ労務管理と規程整備の盲点」について、解説いたします。

※本コラムは、一般的な情報提供を目的としたものです。法令や行政の指針は執筆時のものであり、改正されることがあります。また個別の事案によって適切な対応は異なります。

執筆者:特定社会保険労務士 坂中 隼人

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