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「1か月単位の変形労働時間制」を適用された医師に対する
休日振替時の留意点
医療機関向けコラム
2026年8月20日
医師の働き方改革が本格的にスタートし、多くの病院で労働時間の適正化が進められています。日勤や夜勤、当直などが入り混じる医師の勤務実態に対応するため、多くの医療機関が導入しているのが「1か月単位の変形労働時間制」です。
この制度は、業務の繁閑やシフトに合わせて柔軟に労働時間を割り振れる大きなメリットがあります。しかし、突発的な学会参加や急な欠員対応などにより、事前に決めていたシフト上の「労働日」と「休日」を入れ替える(休日振替を行う)場面も発生します。
実務上、「事前に振り替えているのだから、休日手当はもちろん、時間外手当(残業代)も発生しないはず」と考えがちですが、実はこの考え方は誤りです。1か月単位の変形労働時間制を適用していても、休日の振替方法によっては「時間外労働」が発生し、割増賃金の支払い義務が生じるケースがあるのです。
本コラムでは、どのような場合に割増賃金(残業代)が発生するのか、その具体的な判断基準を分かりやすく解説します。
まずは、前提となる基本ルールをおさらいしておきましょう。
1. 1か月単位の変形労働時間制とは
1か月以内の期間(変形期間)を平均して、1週間当たりの労働時間が40時間(法定労働時間)以内に収まるように設定することで、特定の日に8時間、特定の週に40時間を超えて労働時間を割り振ることができる制度です。この制度があるからこそ、当直がある日に10時間、別の日は6時間といった柔軟なシフト設定が可能になります。
2. 休日振替(振替休日)とは
あらかじめ就業規則等の定めに従って、事前に「休日」とされていた日を「労働日」とし、代わりに他の「労働日」を「休日」に指定して入れ替えることを指します。振り替えた場合は、その日に働いても原則として「休日労働(35%以上の割増)」にはなりません。
しかし、休日労働にはならなくても、労働日としての労働時間管理が適用されるため、結果として「時間外労働(月給制適用者であれば25/100の割増)」が発生するケースがあるのです。
1か月単位の変形労働時間制において、事前に休日を振り替えたにもかかわらず割増賃金が必要になるのは、主に以下の3つのケースです。
1か月単位の変形労働時間制では、あらかじめシフト(勤務予定)で「この日は8時間を超える(例:当直で10時間)」と特定しているからこそ、その日の8時間超の部分へ時間外労働としての取り扱いが免れているにすぎません。
しかし、休日振替によって、もともと「8時間を超える所定労働時間が設定されていなかった日」に労働させることになり、その労働が8時間を超えた場合は、超えた時間が時間外労働となります。
(具体例)
| 当初の予定:日曜日(休日・0時間)、月曜日(当直・10時間勤務) 振替の対応:日曜日を「労働日(10時間当直)」に、月曜日を「休日(0時間)」に事前に振り替えた。 |
もともと休日であった日曜日には、予め定めたシフト上で「8時間を超えて労働できる」という事前の設定がありません。そのため、振り替えられた日曜日(元・休日)に10時間労働させると、法定労働時間(8時間)を超えた「2時間分」は時間外労働となり、25/100の割増賃金の支払義務が発生します。
振替の対応:今週の土曜日(休日)を、翌週の労働日に振り替え、今週は土曜日も出勤(週6日勤務・計48時間労働)とした。代わりに翌週に休日が1日増加した。休日を「同一の週(日〜土など、就業規則等で定める暦週)」の枠外にある別の週に振り替えた結果、特定の週に休日が減少して勤務日数が増え、その週の労働時間が40時間を超えた場合も割増賃金の対象です。
(具体例)
| 通常週:週5日勤務(計40時間)、週2日休日(土・日) |
事前に振り替えたため、今週の土曜日出勤自体は休日労働(35%割増)にはなりませんが、今週の労働時間が計48時間となり、週の法定労働時間である40時間を超過しています。したがって、この超過した「8時間分」に対しては、25/100の時間外割増賃金の支払いが必要になります。
そもそも1か月単位の変形労働時間制は、「1か月以内の変形期間を平均して週40時間以内にする」という制度です。そのため、変形期間をまたぐ(例えば翌月への)休日の振替は、制度の趣旨からして望ましくありません。 実務上、どうしても月をまたいで振り替える(または、振替休日が取得できずに未消化で月をまたぐ)ようなケースでは、以下の割増賃金が発生します。
(具体例)
| 休日を変形期間外に振り替えした(例えば翌月以降に先送りした)結果、当月における「変形期間の法定労働時間の総枠」(例:31日の月は177.1時間)を超えて労働することになった。 |
この法定総枠を超えた時間に対しては、当月の給与計算において25/100の割増賃金を支払わなければなりません(※極めて厳密に言えば賃金全額払いの観点から、一旦125/100で支払い、翌月の給与計算から100/100部分を控除する取り扱いを要します)。
1か月単位の変形労働時間制は、正しく運用できれば医師の柔軟な働き方を支えるツールになりますが、一歩運用の仕方を誤ると、気づかないうちに未払い残業代が発生してしまう可能性を抱えています。 さらに、シフト作成時には、単に労働時間の総枠だけでなく「勤務間インターバル」や「代償休息」の確保も同時にクリアしなければならず、現場の管理負担は非常に大きくなっています。
「自院のシフト作成や休日振替のルールが、本当に適法になっているか不安だ」 とお悩みの医療機関様は、ぜひお気軽に弊法人までご相談ください。医療機関の労務管理に豊富な実績を持つ社会保険労務士が、トータルでサポートいたします。
※本コラムは、一般的な情報提供を目的としたものです。法令や行政の指針は執筆時のものであり、改正されることがあります。また個別の事案によって適切な対応は異なります。
執筆者:社会保険労務士 浅賀 聖斗
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