台風・自然災害・クマ出没時の「休業手当」

 大学・研究機関向けコラム 

2026年8月28日

はじめに

近年、台風や集中豪雨などの自然災害に加え、これまで想定されていなかった地域でのクマの出没などを受けて、休講、入構禁止、施設閉鎖を判断する大学・研究機関が増えています。このとき、学生への措置と、雇用関係にある教職員・研究職員の勤務や賃金の取扱いは、分けて考えなければなりません。自然災害等を理由とする休業であっても、当然に休業手当が不要になるわけではないためです。

休業手当の基本的な判断軸

労働基準法第26条では、「使用者の責に帰すべき事由」により労働者を休業させた場合、平均賃金の60%以上の休業手当を支払う必要があります。一方、天災事変などの不可抗力による休業であれば、同条に基づく支払義務は生じません。
不可抗力と認められるには、次の2要件をいずれも満たす必要があります。
1. 休業の原因が、事業の外部から発生したものであること
2. 通常の経営者として最大限の注意を尽くしても、休業を避けられなかったこと
校舎や研究施設の損壊、浸水・停電、行政機関による立入り規制などは、不可抗力と認められる可能性が高い事例です。ただし、施設に直接の被害がなく、大学等が自主的に閉鎖した場合は、直ちに不可抗力とはいえません。テレワーク、時差勤務、安全な別施設での勤務、休業時間の短縮などによって、休業を回避できなかったかも含めて判断します。

確認事項

ポイント

危険の客観性

警報、避難情報、立入り規制、施設被害、通勤経路の状況を確認する。

代替勤務

テレワーク、オンライン授業、時差勤務、別施設勤務の可否を検討する。

対象時間

一日単位で決めつけず、規制・停電等の時間帯に応じて判断する。

※ 労働基準法第26条上の休業手当が不要でも、労働契約、労働協約、就業規則、労使慣行に賃金保障の定めがあれば、その定めに従います。

休講・入構禁止と教職員の「休業」は別問題

学生への対面授業を休講としても、教職員がオンライン授業、教材作成、採点、研究・事務業務などを行っていれば、休業ではなく勤務です。
一方、出勤やテレワークを命じず、予定していた勤務を免除した場合は、教職員について休業が発生し、休業手当の要否を検討する必要があります。名称が「自宅待機」であっても、具体的な業務を行わせれば勤務、業務を命じず自宅で待機させるだけであれば休業となる可能性があります。
なお、緊急連絡への即時対応や、直ちに業務を開始できる状態を義務付けるなど、強い拘束を伴う待機は労働時間に該当する可能性があります。待機中の指示内容や対応範囲は、あらかじめ明確にしておくことが重要です。

ケース別の考え方

・計画運休で一部の教職員が通勤できない
施設が通常どおり開いている場合は、使用者が命じた休業ではなく欠勤となる可能性があります。ただし、代替経路の現実性と安全性、テレワーク、始業時刻の繰下げ、災害時特別休暇の有無を確認します。大学等が施設全体を閉鎖する場合は、計画運休だけで不可抗力とはならず、代替勤務や勤務時間変更で回避できなかったかを検討します。

・台風接近を理由に自主的に施設を閉鎖する
安全確保のための早期判断は重要ですが、「念のため」の一律休業が当然に不可抗力となるわけではありません。暴風・豪雨による具体的な通勤危険、道路冠水や河川氾濫、避難情報、施設の安全確保困難、停電・通信障害、実験設備や危険物の安全維持が困難といった客観的事情を確認します。

・浸水・停電、行政機関の立入り規制がある
施設を使用できず、業務継続が困難な場合は、不可抗力と認められる可能性が高くなります。ただし、他の建物、テレワーク、一部業務への切替え、規制解除後の勤務が可能かを検討し、必要な時間帯に限って休業させる視点が必要です。

・クマが敷地内・主要経路にいる
警察や自治体の対応が続き、安全な立入りが困難であれば、不可抗力と認められる可能性は比較的高いと考えられます。テレワーク、オンライン授業、別施設勤務、入構禁止時間帯のみの休業を検討します。

・近隣でクマが目撃されたにとどまる
目撃情報だけで施設閉鎖が不可抗力となるわけではありません。目撃場所・時刻、移動方向、行政情報、通勤経路への影響、出入口の安全管理、テレワークの可否を確認します。客観的危険性が低いのに勤務を免除すれば、休業手当が必要となる可能性があります。

研究施設特有の業務と安全配慮

研究施設では、実験動物や生物試料、危険物・薬品・ガス、放射線施設、クリーンルーム、サーバー、研究データなど、災害時にも管理が必要な対象があります。
そのため、一部の教職員を緊急対応要員として出勤させる場合は、出勤基準、安全な移動手段、連絡体制、保護具・緊急用品、代替要員、遠隔監視への切替えなどをあらかじめ定めておくことが重要です。「実験を止められない」という理由だけで、危険な状況下での出勤を命じることは適切ではありません。
また、使用者には労働契約法第5条に基づく安全配慮義務があります。休業手当の支給義務の有無と、教職員を安全に勤務させられるかどうかは別の問題です。休業手当の支払いを避けるために危険な出勤を命じた場合は、安全配慮義務違反として、事故発生時に損害賠償責任を問われる可能性があります。

平常時に整えておきたい対応

・学生への措置と教職員の勤務を分ける
休講・入構禁止の通知とは別に、出勤、テレワーク、オンライン授業、緊急対応要員、勤務免除時の賃金を明示します。

・災害時に可能なテレワークを整理する
授業準備、採点、学生対応、会議、データ分析、論文作成、事務業務などを整理し、端末、通信、情報セキュリティー、データ持出し、労働時間管理も確認します。

・災害時特別休暇を検討する
不可抗力により無給となる場合の生活上の不利益を軽減するため、対象事由、対象者、日数・時間数、有給・無給、申請方法を就業規則等に定めます。

・年次有給休暇を一方的に充てない
年休は原則として本人の請求により取得する制度です。休業手当が不要な場合は、無給扱いとするか、本人の希望により年休を申請するかを案内します。休業手当が必要なケースを無給扱いにすることはできません。

・非常勤・有期雇用職員も確認する
非常勤講師、有期雇用研究員、ポストドクター、補助員、TA・RA等も、雇用契約に基づく勤務であれば休業手当の対象となり得ます。非常勤講師は、雇用契約、補講、授業外業務、賃金の決め方を確認します。TA・RAは、雇用か教育上の活動かで取扱いが異なります。

・判断過程を記録する
警報・避難情報、交通機関、行政情報、施設・通勤経路の状況、代替勤務の検討、対象者・時間帯、連絡内容、賃金・休暇の取扱いを残します。

おわりに

大学・研究機関の災害対応では、「自然災害だから休業手当は不要」「学生を入構禁止にしたから教職員も当然に休み」と単純に判断することはできません。施設や通勤経路の危険性、行政の規制、代替勤務の可否、休業を回避するための対応、就業規則等の賃金保障を順番に確認する必要があります。
いざというときに、安全確保と適切な労務管理を両立できるよう、台風シーズン前に危機管理規程、就業規則、テレワーク制度、勤怠・賃金の取扱いを見直しておきましょう。

※本コラムは、一般的な情報提供を目的としたものです。法令や行政の指針は執筆時のものであり、改正されることがあります。また個別の事案によって適切な対応は異なります。

執筆者:特定社会保険労務士 坂中 隼人

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