『医療機関のためのハラスメント対策ガイド』

第4回 

申告があったとき、組織の真価が問われる
――公正な事実調査の進め方

 医療機関向けコラム 

2026年9月24日

本コラムは、「医療機関のためのハラスメント対策ガイド」と題し、全5回でお届けする連載です。

第1回 なぜ医療機関でハラスメントは起きやすいのか
第2回 「指導」と「パワハラ」の境界線
第3回 相談されない窓口は、無いのと同じ
第4回 申告があったとき、組織の真価が問われる(今回)
第5回 患者・家族からのハラスメントと、持続する組織づくり

はじめに

前回は、職員が声を上げやすい「相談体制」のつくり方をお話ししました。
では、実際に相談や申告があったら、組織はどう動くべきでしょうか。ここからが、本当の勝負です。
その第一歩が、「事実調査」です。調査のやり方ひとつで、組織の姿勢が問われます。

そして今回、いちばんお伝えしたいことがあります。調査の目的は、ハラスメントに当たるかどうかを判断することだけではない、ということです。

申告のあとが、本当の勝負です

最初にお伝えしたいのは、「相談を受けて終わり」ではない、ということです。
職員が勇気を出して申告したら、組織は事実を確かめる必要があります。ここで動かなければ、職員の信頼は一気に失われます。
一方で、進め方を誤ると、別の問題が起きます。雑な調査は、新たな傷やトラブルを生みます。
だからこそ、公正な手順が大切になります。
調査の良し悪しは、その後の職場を大きく左右します。きちんと向き合えば、職員は「ここは守ってくれる」と感じます。おざなりにすれば、信頼は静かに崩れていきます。

公正な調査の、基本の流れ

まず、調査の基本の流れを押さえましょう。
おおまかには、申告した人から話を聞き、必要なら次に第三者、最後に相手方に確認します。
このとき、いくつかの約束ごとがあります。

  • 第三者や相手方に聞く前に、申告者の了解を得る
  • 関係者のプライバシーを守る
  • 申告したことで、不利益な扱いをしない
  • 先入観を持たず、両方の話を平等に聞く

どれも、当たり前のようで、実際には難しい点でもあります。
流れを知っていても、いざ自分の職場の話になると、判断は一気に難しくなります。だからこそ、約束ごとを最初に確認しておくことが大切です。

やってはいけない調査

注意したいのが、調査での「やってはいけないこと」です。たとえば、次のような進め方は危険です。

  • 噂や印象だけで、結論を決めてしまう
  • 組織の顔色に忖度した報告書をまとめてしまう
  • 関係者に十分に話を聞かない
  • 証拠の有無などを確認しない
  • 調査の内容を、関係のない人に漏らす
  • 申告者を、別のシフトに外すなど不利益に扱う

これらは、二次被害や訴訟につながります。調査そのものが、新たなハラスメントになってはいけません。
特に医療現場は、世界が狭く、人間関係も固定されがちです。一度こじれた調査は、部署全体の空気を長く重くします。

調査の目的を、取り違えていませんか

ここで、いちばん大切な話をします。多くの人が、調査の目的を取り違えています。
「ハラスメントに当たるかどうか」を判断すること。たしかに、それも調査の役割の一つです。
でも、それだけがゴールではありません。「当たらない」と判断した時点で終わってしまうと、職場は何も変わらないからです。
調査は、裁判ではありません。誰かを裁くためではなく、職場を良くするために行うものです。
たとえば、調査の結果が「ハラスメントとまでは言えない」だったとします。ここで報告を終え、ファイルを閉じてしまう。これでは、申告した職員も、周りの職員も、何も救われません。

いちばん大事なのは、背景と再発防止です

では、何がいちばん大事なのでしょうか。それは、問題の背景や経緯を確かめ、再発を防ぐことです。
ハラスメントの裏には、職場の問題が潜んでいることが多くあります。

  • 人手不足で、いつも余裕がない
  • 長時間労働が続いている
  • 職種をまたいだ意思疎通が足りない

こうした背景に目を向けないと、同じことがくり返されます。個人の問題で終わらせず、環境そのものを見直すのです。
医療現場では、命を預かる緊張感や、慢性的な人手不足が、背景に重なりがちです。だからこそ、出来事の表面だけでなく、その奥にある事情まで見ることが欠かせません。
実は、国の指針もそう求めています。ハラスメントがあったと確認できた場合はもちろん、確認できなかった場合でも、再発防止の措置を講じることとされています。
つまり、ハラスメントに当たらない場合でも、そこで終わりではないのです。
この「確認できなくても措置を講じる」という点は、見落とされがちです。けれど、ここにこそ、調査を再発防止につなげる発想が表れています。

「該当しなかった」場合こそ、提言を

ここが、調査の真価が出るところです。たとえハラスメントに当たらなくても、やるべきことがあります。
それは、よりよい職場にするための提言です。
申告があったということは、何かが起きていたサインです。不満、すれ違い、誤解。結論がどうであれ、その火種は残ります。
だからこそ、こんな提言につなげます。

  • 言葉づかいやコミュニケーションのルールを見直す
  • 業務の偏りや、応援体制を調整する
  • 必要なら、研修や面談で関係を整える

「申告して無駄だった」と思わせない。それが、次の相談につながり、職場を守ります。
「問題はありませんでした」という結論だけを伝えれば、申告した職員は「やはり言わなければよかった」と感じます。逆に、調査をきっかけに何かが良くなれば、その経験は組織の財産になります。

ここまでできる調査には、専門性が要ります

ここまで読んで、難しいと感じたかもしれません。該当の判断、背景の分析、再発防止の提言。これらを片手間で行うのは、簡単ではありません。
たとえば、ハラスメントだと認定できても、それがそのまま重い処分につながるわけではありません。事実を認めることと、どんな処分が見合うかは、別の判断です。ここを一足飛びにすると、今度は行為者の側から「処分が重すぎる」と争われることもあります。認定と処分は、分けて考えます。
まず大切なのが、調査を担う人を育てることです。事実調査は、見様見真似でできる仕事ではありません。聞き取りも、記録も、判断も、訓練がいります。だからこそ、調査担当者向けの研修は必須です。弊社の調査担当者向け研修では、次のような力を学べます。

  • 中立を保った、聞き取りの進め方
  • 記録の残し方と、プライバシーへの配慮
  • 背景を読み解き、提言につなげる視点

そのうえで、利害が複雑な事案は、無理に抱え込まないことです。医療現場に詳しい社会保険労務士(社労士)に、調査の入り口から伴走してもらえば、進め方を誤りません。
調査の不備は、後から覆すのが難しいものです。最初のひと足を間違えないことが、何よりの近道になります。

終わりに

事実調査は、誰かを裁くためのものではありません。職場を、一歩前に進めるためのものです。
該当したかどうかの、その先へ。背景に向き合い、環境を整える組織こそ、職員に信頼されます。
「裁く調査」から「良くする調査」へ。その積み重ねが、ハラスメントの起きにくい組織をつくります。
次回は、いよいよ最終回です。患者さんやご家族からのハラスメントと、対策を続けていく組織づくりについてお話しします。

ご相談・お役立ち資料のご案内

公正な調査には、確かな知識と経験が欠かせません。フォーブレーンの調査担当者向け研修では、聞き取り・記録から再発防止の提言まで、実務に沿って学べます。eラーニングなら、いつでも・どこでも・何度でも見直せます。内容をお確かめいただけるよう、全編の無料試聴も承っています。

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※本コラムは、一般的な情報提供を目的としたものです。法令や行政の指針は改正されることがあり、個別の事案によって適切な対応は異なります。実際の対応にあたっては、専門家にご相談ください。[本記事は、2026年8月時点の情報に基づいています]

執筆者:特定社会保険労務士 稲好 智子

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